中国人が嫌う性急さ―孫中山先生を記念して―

　一、二ヵ月前、新聞紙上に孫中山先生の談話が掲載されていた。そこで彼は、「私は今、病に臥せっている。だが、私は性急すぎるため、たとえ病でなくても、おそらく善後策を決める会議でそれほど大きな貢献をすることはできないだろう」と述べている。この言葉は、孫先生の性格を最もよく表しており、普通の中国人の性癖との違いをも表している。なぜなら、性急さは中国人の嫌うところであるからだ。孫先生と衆人との違いは、正にこの「性」という字に隱されており、故に私に中国を改造することが極めて困難であると感じさせる。魯迅先生が、今日の救国は曲がりくねった渺茫とした道、すなはち「思想革命」にあると言っているが、正にその通りである。私の意見としては、今日の救国が「思想革命」にあると説くのであれば、「性の改造」にあると説いてはどうかということである。これは、「思想革命」よりも難しく、さらに曲がりくねった渺茫たる道である。中国人の今日の病はもとより思想にあり、とりわけその性癖にある。一人の思想を改めることはまだ比較的に容易だが、怠惰でのんびりした人を短気でせっかちな人に変えることは難しい。中国に今日、どうして思想がないことがあろうか、主義がないことがあろうか。だが、このいわゆる主義は紙の上の主義であり、いわゆる思想も紙の上の思想に過ぎない。思想、主義を性急に求め、崇高な理想のために熱狂し理性を喪失した人、大々的にその主義を貫徹しなければ気が済まず、その主義を自身の革命と同一視する人はいるものではない。それらを備えているのは、孫中山先生だけである。孫中山に「之を行うは艱に非ず、之を知るは惟れ艱なり」の学説があるゆえんである。
  もしこれを歴史上に求めるならば、性急なる者がいずれも中国人によって虐げられてきたことは、明らかな事実である。中国は元来、性急を好まないのであり、だからこそ子路は早くも孔子から「其の死を得ざらん」との呪詛の言葉を受けた。屈原や賈誼のごときは、中國の性急なる者の代表と言うべきであり、特に賈誼については、早くも蘇東坡がその短慮を指摘している。これは、中庸の哲學と楽天知命（運命を信じ、今の地位境遇に安んじてあれこれ悩まないこと）の道理が導く自然の結果である。徐（徐炳昶）先生の非中庸論とは、「天に聴き、命に任す（すべてを天命に任す）ことと中庸の空気を打ち破らない限り、我が国の思想に進歩の希望は永遠にない」（『猛進』第三期、魯迅への返事）というものである。私個人は、中庸哲学とは中國人の惰性の結晶であり、中庸とは無主義の別名であり、いわゆる楽天知命もまた奮闘を望まないことの通称に他ならないと思っている。中国が最も重んずるのは「立身安命」の道理であり、命に安んずることができなければ、身を立てることはできず、身がすでに立てば、常々抱いていた主義は遙か彼方に捨てられる。中国人の惰性は、この中庸哲学の美名によって保護されており、気が短い人も徐々に吸い込まれて融け込んでしまうため（これを中庸化と言うことができる）、この国で少しでも気が短い人を探し出すことは極めて難しい。すでに全土が中庸化されてしまったがために、今日の国中が衰退した現象が成ったのだ。留学生について言えば、帰国したばかりのころは、誰もがある程度洋鬼子のせっかち性を帯び、西洋かぶれしたしぐさが時折顏を出し、世間慣れしていない者として同僚に笑われることになる。そのため、日を追うごとに世間に慣れ、経験を積んだ当代の名士に変わらない者は稀である。世間にも慣れ、経験も積んだ時、中庸不偏の技量は磨かれ、楽天知命の学理に精通するようになり、仕官への運が開けて世に名が知れ渡る資格を得られる。
  私が思うに、孫中山先生の性格はあまり中国人らしくない。それはつまり、孫中山先生が現代の中国人らしくないということを指す。孫中山先生が将来の中国人の姿となることができるかどうか、これが今日の我々の最大の教育問題である。孫中山が将来の中国人の姿であるとすれば、将来の中国について我々は憂慮する必要はないだろう。孫中山先生が将来の中国人らしいかどうか、言葉を換えれば、現代の惰性に満ちた中国人が多少短氣でせっかちな中国人に変われるどうかは、我々が今「思想革命」を超える「精神復興」運動を成功させることができるかどうかにかかっている。
  豈明（周作人）先生がすでにこう述べている。「現状のまま行けば、民国が実現できないだけでなく、中華そのものが危い。『心の危きと成す所、敢えて告げずんばあらず』、願わくは人々の注意あらんことを」（『語絲』第十九期）。誠に、人々に注意あらんことを願う。
「精神復興」を提唱することは、今日の言論界の最も重要な仕事であると私は思う。